「昭和陸軍の研究」

 「昭和陸軍の研究」(朝日文庫・保坂正康)

 高級参謀から一兵士まで500人近い陸軍関係者のインタビューを下に、意思決定から戦闘まで昭和陸軍の姿を克明に描いたノンフィクション大作。

 とにかく証言やインタビューが豊富なので、知っていたつもりの戦闘や政策決定過程でも「そんなことがあったのか」「そんな雰囲気だったのか」と驚くことが多々あった。また戦争そのもののほかにも、戦友会や軍人恩給などにも触れていて戦後何十年たってもなお消せない「昭和陸軍」のしみがあることもわかった。どうしても証言などが中心となるので、組織としてどうだったかという考察が十分とは言いがたい感じもする(かなり難しいけど)が、「なぜあの戦争で死ななければならなかったのか」という哀切きわまる問いかけが全ての行間から伝わってきて圧倒される本であることは間違いない。

 当然ながら参謀には参謀の論理、兵士には兵士の心情があるのだけれど、敗戦まで、あるいは敗戦後ですら一度も両者の意思が交錯することはなかったようで、そのことが昭和陸軍の全てを表しているともいえる。「精神力」しか唱えない参謀部に「無能」とののしられながらも玉砕していった兵士が数多くいる一方で、その参謀達の一部は戦後GHQから給料をもらって、都合のいい戦史編纂に暗躍していたという事実には、まともな言葉が出てこない。当時の指導者が戦争維持の方便として唱えていた植民地からの解放に、戦後も自主的に参戦した名もない兵士もいた。日本人の視点から、昭和陸軍に美点があったとすれば、現地の兵士達が「命をとした(失っても)」勇敢に戦った行為の一点に限られる、といってもいいのではないか。
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蹴球四十雀

Author:蹴球四十雀
滋賀のサッカーJFLチーム「MIOびわこ滋賀」を心の底から応援しつつ、たまにフットサルで息を切らす。一方、書斎での濫読(純文ラノベ歴史ノンフィクション)や琵琶湖周辺の野山歩きもこたえられません!

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